大学生で本格的な会計キャリアを志そうというとき、多くの場合「公認会計士か税理士のどちらの資格取得を目指すか?」という選択を迷うかと思います。
資格取得を考えるときには、収入や難易度に目が向きがちですが、長いキャリアにおける選択肢の違いに目を向けて考えると、取得した資格を活かして自分らしいキャリアを歩んでいける可能性が高まります。
ここでは、主として「キャリア的な特徴や選択肢という視点から公認会計士と税理士の違い」を整理してみましょう。ひとつの考え方として、会計士か税理士かを迷っているときの参考にしてくださいね。
当記事は、2019年5月時点の情報を参考にしています。
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キャリアの視点から見た会計士と税理士で違う5つのポイント
会計は「会計原則」、税務は「税法」がベースにある
会計士と税理士の業務において、実務では重複する部分もありますが、基本的に会計士は会計分野の専門家、税理士は税務分野の専門家の資格です。それぞれが専門家’(プロフェッショナル)たる所以は、「会計は会計原則」「税務は税法」という、一般人には理解しづらいけれども重要なものがベースにあります。
会計原則は統一へ向かう大きな流れ
- 会計原則は、日本では日本の「企業会計原則」、米国では米国で一般的に認められた会計原則としての「米国会計原則」というように、各国ごとにありました。ところが、EU域内の上場企業に国際会計基準(IFRS)が義務づけられているように、大きな流れとして国際会計基準に統一されていく方向にあります。
- 日本では国際会計基準の任意適用となっていますが、東京証券取引所に上場している会社で国際会計基準を採用している会社は200社を超えて時価総額では3分の1を占めています。
- 企業活動や投資のグローバル化が進むにつれて、国際会計基準を適用する企業はますます増えていくと考えてられています。
「国際会計基準、200社超え 大企業多く、海外M&Aに利点 」日本経済新聞2018年7月16日付け記事より)
税法は各国の政策が反映される法律
- 税法は、各国ごとに税法体系があります。日本においては、国税と地方税に大きく分かれ、さらに多くの税法があります。
- 日本の各税法に租税と経済の施策が反映されているように、各国の税法もそれぞれの国の政策が反映されています。したがって、各国の税法に国際的に統一の流れはありません。
- 二重課税を防ぐことや企業や個人の視点から税務負担を最適化する国際税務の分野はありますが、税法そのものは、その国のオリジナルの特徴が反映されたままです。
「国税・地方税の税目・内訳」財務省ホームページより
このように、会計士と税理士では、「国際統一へ向かう会計基準」と「各国のオリジナルであり続ける税法」というように、専門家として活躍するベースの特徴が大きく異なります。
会計士と税理士では「移動力」の地域性が異なる
会計士も税理士も、プロフェッショナルとしてのMobilityが高い職種です。どちらの職種も、長い人生を幸せに生き抜くためのキャリアとして、物理的にいろいろな場所で働くことができるスキルを兼ね備えた専門職と言えます。
しかし、移動力の地域性は大きく異なる面があります。
会計士は大都市や海外都市で活躍
会計士は、比較的に大都市や海外都市へ、その移動力の方向性が向きます。その理由としては、以下が挙げられます。
- 会計監査が必要となる企業サイズの会社は大都市にあることが多い。
- 企業内会計士を求める企業も大都市に多い。
- 国際会計基準の専門家として海外でも会計士として活躍できる。
将来的に海外でも働いてみたいと考える場合には、会計士は魅力的な選択肢と言えそうですね。
税理士は国内さまざまな場所へ
税理士は、日本国内であれば、大都市から地方の小さなな市町村へ至るまで、さまざまな場所へ移動力の方向性が向きます。その理由としては、以下が挙げられます。
- 大手の税理士法人は大都市にある。
- 地方都市にも税理士法人、税理士事務所などが多くある。
- 中小企業は日本全国のあらゆる場所で税理士を必要としている。
将来的に地方都市に住みたい、地元に戻る選択肢を持っていたい、という場合には、税理士のほうが幅広いチョイスを持てそうですね。
サービス提供の相手が異なる
会計士は、会計監査の仕事でも経理財務の仕事でも、比較的に大きな監査法人や大企業が仕事の舞台となる場合が多いと考えられます。外資系企業の場合でも、日本での企業希望は小さくても、国際的に展開している大きな企業であるケースが多くなっています。
税理士は、ビッグ4などの大手の税理士法人であれば大企業を相手にしますが、多くの中小企業や個人事業主なども税務申告において税理士を必要とするため、中小法人や個人を相手に仕事をする場合が多くなります。
独立への可能性
税理士は、比較的に独立に近い士業です。最初は大手の税理士法人で経験を積んで、その後に税理士として独立開業をするというパターンも多くあります。
会計士も独立は可能ですが、税理士登録をして税務分野を中心に独立する会計士も多い状況です。
試験の特徴「有効期限の違い」
試験制度については、すでに多くの情報がすでにあるので当記事で深入りはしませんが、ここでは、「確実に試験合格をめざす」という視点から「科目合格の有効期限の違い」を取り上げます。
公認会計士試験も税理士試験も、試験免除や科目合格の制度があります。ここでは、純粋に試験を受けて合格をめざす場合の「試験免除」「科目合格」にフォーカスして、その違いを見てみましょう。
公認会計士試験の科目合格
公認会計士試験には、短答式と論文式のそれぞれに
- 短答式:短答式は一括合格制。前年と前々年の短答式試験合格者は、短答式試験が免除されます。
- 論文式:前年・前々年の論文式試験において、受験した科目のうちの一部の科目について公認会計士・監査審査会が相当と認める成績を得た科目について、該当科目が免除されます。
ここで注意すべきなのは、試験を受けて公認会計士試験の合格をめざす場合の試験免除や科目合格については、いずれも前年と前々年の試験が対象という点です。試験免除や科目合格のベネフィットを受けるには2年以内ということから、何年もかかって試験合格をめざすというよりも、長くても3年を目処に合格をめざしていこうというスタンスが導かれます。
税理士試験の科目合格
- 5科目の試験は一度に合格する必要はなく、1科目ずつ合格(科目合格)が可能。
- 一度科目合格した科目は、生涯にわたって有効。
つまり、税理士の科目合格は、ずっと有効なので、1科目ずつ働きながら合格をめざしていくということも可能です。
このように、会計士と税理士では、試験戦略という視点から見ると、「税理士試験では長期で試験合格をめざしていくことも可能」という点が特筆されます。
資格試験ですから、いずれの試験も長期よりも短期で試験に合格をするほうがよいことに変わりはないのですが、「試験勉強へ集中できる環境」や「難関試験への向き不向き」などを考えるときに、どちらの試験を選ぶかの選択に影響がある方もいるでしょう。
まとめ
公認会計士も税理士も、長いキャリアのベースになる資格ですから、その選択を迷ったときにはいろいろな視点で考えるようにしましょう。
「移動力の地域性の違い」や「独立に近い資格か」などは、学生の間にはあまり気にならないことかもしれませんが、20代30代となって会計キャリアを続けていく上では、その人のキャリアの発展性に大きく影響する部分です。キャリアだけでなくライフスタイルの選択にも影響してくるので、じっくり考えてみてくださいね。
当記事が、大学生で「公認会計士か税理士かのどちらをめざすかを迷っている方」の参考になれば幸いです!